わたし好みの新刊    20149

『ニワシドリのひみつ』     鈴木まもる/文・絵   岩崎書店社

 最初の見開き頁に奇妙な〈萱葺き屋根のテント〉のような絵が出てくる。しかも,
入り口には赤や青の木の実のようなもの,赤や緑の花弁や葉っぱが整然とまとめて
並べられている。○○族の礼拝所?と思いきや,雀ほどの鳥が花びらをくわえて持ち込
んでいるような姿が描かれている。いったいこれはなんだろうと首を傾げたくなる。
「これはチャイロニワシドリという鳥がつくった〈あずまや〉というものなのです」とある。
次にはまた奇妙な屏風のように草をたてかけたような造形物?が出てくる。前面にはさき
ほどと同じく鳥の羽や人工物まで並べられている。中には苔などが敷き詰められている
ので「なんという素敵な巣だろう」と思っていると,本文には「巣ではありません」と
書かれている。「えっ,巣ではない?」「なるほど,だから〈あずまや〉なのか」と,
改めて見つめ直す。そういえば〈ニワシドリ〉というのは「庭師鳥」とも書かかれている。
だれがこんな和名を付けたのだろうか。まさに「庭師」のする仕事に似ている。

それにしても,巣でもないこんな〈造形物〉に雀ほどの小さい鳥が,なんでこれほどま
でのエネルギーを注ぐのだろうか。

 いくつもの〈造形物〉をながめていくと,「あずまやとメス」という頁にたどりつく。
そこには

〈ニワシドリのメスは、オスがつくった「あずまや」が気にいると「あずまや」のな
 かにやってきます。
メスが「あずまや」にはいると、オスはそこで交尾します。〉

と書かれている。「なるほど,あずまやはオスとメスとの求愛の場なんだ」とわかる。
メスはそこで卵を産んで子どもを育てるのかと思うと,そうはしないらしい。交尾を終え
たメスは別の場所に自分で巣を作りメスだけでヒナを育てるのだそうだ。では,「あず
まや」にいるオスは…次にやってくる別のメスと交尾し,と書かれている。オスは交尾
をして子孫を残すだけの優雅な生活?

世の中には,いろんな生き物がいることに改めて感激させられる本である。
                           
2014,4刊  1,600

 

『虹をつくる』(いたずら博士の科学だいすきU-E)板倉聖宣・遠藤郁夫/著小峰書店 

 このシリーズは,仮説実験授業研究会の授業用に作られた授業書を元に編集されて
いる。授業を通した子どもたちの声も反映されて会話調に話がすすんでいく。さまざまな
形で虹を楽しむ方法や,虹につての科学史的な話も盛り込まれている。

はじめは,虹色の順番や虹色の数について。「虹色の数は7色」とふつう語られてい
るがほんとうは何色だろう。虹を見たら確かめてみなくては。虹には「オス」と「メス」
があるという。そういえば「虹」の字は「虫」編,虹は生き物だろうか。続いて虹の作
り方や見方がくわしく書かれている。虹を見るにはちょっとした工夫が必要だ。理屈がわ
かれば虹は手軽に人工的に作って見ることが出来る。いくつか実際に虹をつくりながら
「虹をつくるコツ」がのみこめていく。ここで質問。虹は二種類のものがあるというのは
本当だろうか。本当なのだ。少し気をつけてみると二種類の虹が見える。どんな風に見え
るのだろうか。

虹の原理について語られていく。まずは,フラスコで実験。ルネサンスの始まる前,
1300年に始めていたというディートリヒさんの実験が体験的に紹介されていく。フラスコ
の少しの位置の変化で色が変化していく。太陽光分光のようすが実感させられる。こうし
て虹の正体に迫っていく。丸い虹は見られるのだろうか,ニュートンの話とフラスコの実験
が結び付いてニュートンの研究が追試されていく。最後に小さいプラスチック球で虹を作る
実験がある。水滴の代わりに小さいガラス球を並べても虹は見える。すぐにもやってみたく
なる。水遊びの一つに虹作りが加わると,夏の楽しさがいっそう増すのではないだろうか。

後半には板倉聖宣氏による長文の解説がある。〈虹は7色か6色か〉は,科学史或いは
科学教育としても興味ある問題である。教育関係者には読んでほしい。「虹の授業だったら,
子どもたちもみんな感動すると思う」と始めた遠藤郁夫さんの研究物語も楽しく読める。 
                     2014,4刊  2,800円 (西村寿雄)
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